そこさえ舐めてりゃいいってもンじゃねぇ!

そろそろブログを閉鎖します

ピングドラム使わないまま中年になっちゃった話が『ベイビーブローカー』

笑顔の素敵な人、というのに憧れます。笑い顔の清々しい人というのは、接しているこちらも大変気持ちが良い。美人だとか可愛いだとかは、この場合あまり関係がありません。顔面の作りより、表情から出るガハハーという愛嬌は身を助ける。

笑顔の上手い下手というのはある。パッと瞬間的に笑顔になれる人がいる一方で、笑うと顔が引きつってスポポビッチになってしまう私がいる。気持ちや喜びがなかなか伝わらない。

日『ベイビーブローカー』という映画を観ました。特に面白かったのは、いい歳の大人が「俺って生まれて来なければ良かったんじゃないか?」って思ってるってこと。ああ、なんだ『輪るピングドラム』で廻らなかった人たちの話なんだな。

そうです。高倉冠葉(赤髪)と高倉晶馬(青髪)が運命の乗り換えしないまま中年になっちゃった話が『ベイビーブローカー』なんだ。なかなかヤバイなあと映画館で頭を抱えた。

捨てられた赤ちゃんを売り飛ばしてる男。中年のサンヒョン(ソン・ガンホ)はギャンブルの借金を返すために孤児をブローカーをする。「余計な法手続きなしで里親に引き合わせてるんだから俺は恋のキューピットやで♪」と陽気に言う。アホな気の良いおじさんだ。

それは旅の終盤だった。里親が見つかってホテルで安堵する一行。言葉遊びのようなノリがあった。彼女は就寝前に同行する皆に暗闇の中で小さな声で言う。「生まれて来てくれて、ありがとう」。彼はそれを聞いて激しく動揺する。目がうろたえてる。自分の中からこみ上げてくる感情に言葉を失う。

中年サンヒョン。後半で明らかになるのは彼は昔結婚していた。元の奥さんと小学生の娘ともう一度一緒に暮らすことを望んでいた。旅の途中で娘に面会した。もう借金は返し終わるんだ。娘はため息をする。お母さんは再婚予定だし、実は私もお父さんに会いたくない。

彼は孤児になった。繋がりは断たれた。血の繋がりにあっけない。自分が生きてることを望まれていなかった。生まれてきた意味なんてなかった。孤児を売買するはずの中年ブローカーは孤児になった。

物語の最後。優しい里親が見つかった。赤ちゃんをついに里親に渡す直前だった。信号で若いヤクザが声をかけてきた。これはヤバい。継母(赤ちゃんの父親の母。つまりおばあちゃん)はマフィアを雇っていた。赤ちゃんを財閥の跡取りにするつもりだった。

サンヒョンの目にグッと力が入る。「リラックスしましょう、俺とちょっとだけ話しませんか。俺は後から行くから、とりあえずお前ら(里親のところへ)先に行け。」

次に画面に映ったのは殺人事件のニュース。人が乗り換えを待ってる電車の待合室。サンヒョンはいた。そこに力ない表情で、シャツをほんの少し赤くして、ただ、そこに、座っていた。

赤ちゃんは継母の手に渡ることはなかった。

サンヒョンは行方不明になった。

 

「運命の乗り換えをしよう」

それはTVアニメ『輪るピングドラム』(監督:幾原邦彦)電車に仕掛けられた爆弾を止める呪文。というより、物理法則を無視して起こる未来を変える魔法。これはイザナミだ。いや、イザナギだ。どっちでもええわ。

運命が変わる。代償はある。自分の存在が世界から消える。命と引き換えなんて生易しいくない。高倉晶馬は呪文を唱えて皆の記憶からも世界からも消えてしまった。

さて、実は赤ちゃんはマフィア奪還される。出生を呪いながら、あらかじめ用意された立て看板に生きる。そのはずだった。

ヤクザを瞬獄殺したサンヒョン。「生まれてきてくれて、ありがとう」を、かの女から聞いた。闇の中で彼は彼はそこでもう一度命をもらった。運命の赤いリンゴ。それを赤ちゃんに使った。運命の乗り換えをした。

血の運命を断って別の未来を用意した。